大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和38年(オ)220号 判決 1967年9月07日

上告人(参加人・控訴人) バンク・オブ・インデイヤ

右訴訟代理人弁護士 平林真一

被上告人(被告・被控訴人) 福武株式会社

右訴訟代理人弁護士 船内正一

被上告人(原告・被控訴人) ナチヨナレ・バンク・フオール・ミデルランク・クレデイト・エヌ・ベイ(旧商号 ナショナル・ハンデルスバンク・エヌ・ヴイ)

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人平林真一の上告理由第一点について

被上告人福武株式会社から本件室を、敷金を差し入れて賃借した者がチエタンダス・ジエタナンド・ハテイラマニ(以下単に「ハテイラマニ」という)個人である旨の原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同様とする)の認定はこれに対応する挙示の証拠によって肯認できないことはなく、その間に所論の違法はない。論旨は、結局、原審の裁量に委ねられた証拠の取捨判断および事実認定を非難するものであって、採用できない。

同第二点について

ハテイラマニが被上告人福武株式会社に対し本件室の賃貸借にあたって差入れた敷金の残額金六〇万円の返還請求権を有し、右債権が、商事債権であって、昭和三十一年四月一日から五年の短期消滅時効の適用をうけるものであることと、ハテイラマニとラムチャンド・ウタムチャド・マブバニの両名が、パートナーシップの契約を締結し、その名称をインドネシヤ・マラヤ・エキスポータース(以下単に「インドネシヤ」という)としたが、昭和三〇年八月二六日右契約を解消したことおよび右契約についてはインドネシヤ連邦の法律が適用されるが、右契約が日本民法上の組合契約に酷似していること以上の事実認定および判断は、いずれも原判決が適法にしているところである。そして、上告人が、昭和三一年九月一五日、当事者参加の申出をすることによって、インドネシヤに代位して被上告人福武株式会社に対し前記本件敷金の返還請求をしたことは、本件記録に徴し明らかである。以上認定判断したところから考察すれば、右パートナーシップの契約の法律的性質のいかんによっては上告人がインドネシヤに代位してした右返還請求は、ハテイラマニ個人に代位してその有する本件敷金返還請求権を行使したものとしての効力を生ずる余地があり、もし、右効力が生じたとすれば、これによって、本件敷金返還請求権の消滅時効については中断の効力が生じたことになる。しかるに、原判決は、右パートナーシップの契約の法律的性質について審理を尽さず、漫然と本件敷金返還請求権が消滅時効の完成によって消滅したものと速断したのは、審理不尽の適法を犯したものである。

されば、この点を指摘する論旨は理由があるから、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、右パートナーシップの契約の法律的性質についてさらに審理を尽させるため、本件を原審に差し戻すのを相当とする<以下省略>

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

上告代理人平林真一の上告理由

第一点原判決は経験法則に違反して事実を認定し、重要なる争点につき判断をなさず、且審理を尽さざることによる理由不備の違法がある。よりて破毀相当と思料する。理由は次の通りである。

(一) 上告人銀行が、被上告人福武株式会社(以下単に福武と略称する)に対して支払を訴求している金六十万円は、パートナーシップ PARTNERSHIP である訴外インドネシヤ・マラヤ・エキスポータス INDONESIA MALAYA EXPORTERS (以下単にインドネシヤと略称する)が右福武所有のビルデイングの一室を営業用事務室として賃借するに際し、福武に貸付金名義で差入れた敷金(丙第二号証の一乃至三)である。然るに右インドネシヤのパートナー(組合員)ハテイラマニ(右インドネシヤを代表して賃貸借契約書に署名した者)及び同マブバニの両名は、上告人銀行に対し別訴大阪地方裁判所第五民事部昭和三〇年(ワ)第四三九三号当座借越金等請求事件(丙第十二号証による判決御参照)により、各自連帯して金八百五十八万三千六百七十九円の連帯債務を負担しているから、右インドネシヤに代位して右敷金の支払を訴求しているのである。

(二) 右事実につき、原審はその判決理由中冒頭において、「賃借人がハテイラマニ個人であるか、ハテイラマニとマブバニを組合員とするパートナーシップ(インドネシヤ・マラヤ・エキスポータース)であるか……この点に関する当裁判所の判断は原判決の理由に記載するとおりであるから、これを引用する」として第一審の判断を全面的に支持している。そこでこの点に関する第一審の判決理由を検討すると、先づ事実関係につき次の如く判示している。

『成立に争いない甲第四号証、丙第八号証(前記別訴大阪地方裁判所昭和三〇年(ワ)第四三九三号当座借越等請求事件において、インドネシヤの組合員ハテイラマニが証人として陳述した口頭弁論調書並びに証人調書)、同第十二号証(右別訴判決)、被告と参加人の間では証人谷村干城の証言により成立を認められる同第五ないし第七号証(インドネシヤの組合員ハテイラマニ及び同マブバニ両名が上告人銀行と取引開始に際し差入れたパートナーシップに依る連帯債務引受契約書並びに右インドネシヤ組合解散通告書)、証人谷村干城の証言を綜合すると、次のように認められる。ハテイラマニは英国籍、マブバニはインド国籍をそれぞれ有するものであるが、右両名はインドネシヤ連邦ジャカルタ市において、ハテイラマニが労務を、マブバニが資金をそれぞれ提供して事業を営む旨のパートナーシップの契約をなした。両名はその契約がどこの国の法律にもとづくものかは知らなかった。そしてハテイラマニは右パートナーシップを代表して取引をする権限を与えられて昭和二七年に来日し、インドネシヤ・マラヤ・エキスポータースの名義を用いて右パートナーシップのために輸出業を営んでいたが、同二八年九月二九日右の名称を、ハテイラマニ個人の商号として登記した。同人は参加人との間の当座取引に際しては、ハテイラマニ、マブバニの両名がその債務責任を負う旨を参加人に対して明らかにしていた。マブバニは同三〇年五月頃来日し、それ以後は主として同人がパートナーシップのための商取引にあたることとなり、さらに同年八月二六日をもって前記パートナーシップの契約を解消し、同人のみが前記商号を使用して日本で商取引を行うこととなって、同年九月八日その旨の登記手続をなした。以上のように認められ、右認定を左右するに足る証拠はない』云々。

次に本件の骨子をなす営業用事務室賃貸借契約に関する事実関係につき、第一審判決理由中次の如く判示している。

『成立に争いのない丙第一号証(借室賃貸借契約書)、同第二号証の一ないし三(敷金領収書)、同第八号証、証人野村潔の証言、被告会社代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すると次のように認められる。ハテイラマニは昭和二八年二月はじめ頃輸出業を営むための事務所として被告所有の福武ビルディング第六二号室を被告から賃借し、敷金として七七四、〇〇〇円を交付し(同月一七日にそのうち金一七二、〇〇〇円の返還を受けた)、一年ほどの間右室を使用していた。しかし右室が手狭になったため、同二九年四月一七日右契約を一旦合意解除したうえ、あらたに同ビルディングの第六〇五号室を賃借することとなり、「インドネシヤ・マラヤ・エキスポータース、パートナー、チエンダス・ジエタナンド・ハテイラマニ」と署名して、賃貸借契約書(丙第一号証)を作成し、その敷金八一二、〇〇〇円のうち六〇二、〇〇〇円はそれまでの賃貸借について差入れてある敷金を流用し、金二一〇、〇〇〇円は現金で交付した。そしてハテイラマニは、国外に共同事業者のマブバニがいること、同人との間で結んだパートナーシップの契約、インドネシヤ・マラヤ・エキスポータースの法的性質などについては被告に対して何ら説明をしなかった。また被告の方でもマブバニの存在は知るよしもなく、前記契約書のハテイラマニに附してある「インドネシヤ・マラヤ・エキスパートナー」なる肩書については全く注意を払わず、単にハテイラマニがその営業のために使用している商号にすぎないものと考え、ハテイラマニ個人を賃借人であると信じてそのように取扱っていた。以上のように認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。』云々

(三) 印度組合法、並びにその母法である英国の組合法における組合即ちパートナーシップ(丙第十三号証鑑定人法学博士八木弘の鑑定書訳語に従う)は何ら法人格を有しないが、印度組合法第七章REGISTRATION OF FIRMS(組合登記)中第五六条乃至第七一条の十六条を以て組合の登記に関し詳細な規定が設けられている。(D・F・MULLA・印度売買法及び印度組合法一九五五年版第一七三頁以下御参照)。また英国におりては、一九一六年商業登記法 THE REGISTRATION OF BUSINESS NAMES ACT1916があってLINDLEY ON PARTNERSHIP 一九五〇年第十一版第一六四頁以下御参照)、共に組合登記に関する詳細な規定を設け、殊に右英国商号登記法においては、組合の登記を強制的のものとし、これを懈怠する場合には罰則を以て臨んでいる。要するに右登記の趣旨は、主として組合と取引をする第三者保護のためである。然るに日本の現行法制の下においては、法人格を附与されている特種組合の場合を除き、一般の組合については法令上何ら登記の制度が開かれていない。故に日常の取引において、何々商店又は何々商会と商号を記し、その代表者たる肩書の下に何某と記名捺印するか、或は又かかる肩書を現はさないとしても、商号の下に何某と記名捺印することは吾人の日常経験するところである。而して斯の如き商店又は商会が内部的に組合組織であるのか、或は又単独の個人商店であるのかにつき、これと取引する相手方は法人の場合と異なり、登記法上これを知るに由ないのである。かかるが故に表現された個人を一応責任者として取引をするのが実情である。しかしながら、若し何々商店又は何々商会なる商号を表記し、その組合員なる肩書の下に記名捺印する場合にありては、同人を責任者として取引するとしても、すくなくとも斯る商店又は商会の内部が組合組織であり、同人がこれを代表していると見るのが常識である。

(四) ひるがえって本件の場合につき考えるに、被上告人福武としては、賃借人が外国人であり(英国籍たる印度人)、賃貸借契約書は只単にハテイラマニなる個人名義で作成されないで、インドネシヤ・マラヤ・エキスポータースなる商号の下に、そのパートナーPARTNERたる肩書を附して署名されてある以上、右インドネシヤなる商店は、ハテイラマニ以外にも何人かの関係者があって、ハテイラマニがこれを代表していると見るのが常識であり、且又社会の通念上かく考えるのが相当である。何となれば、現在日本に普及されている英語の知識を以てするならば、PARTNERなる文字は吾人日常の会話中にもしばしばそのまま用いられていることは顕著な事実であり、原審のように殊更六ケ敷く解釈するまでもなく、パートナーと言えば単独でなく必ず相手方のあることを想定するのが社会の通念である。殊に況んや、被上告人福武自らインドネシヤが組合である事実を認めている証左として、昭和三七年九月六日附上告人(控審人)第四準備書面を以て指摘したとおり、被上告人(被告)福武の昭和三一年一二月一〇日附「参加人印度銀行に対する答弁書」並びに一二日附「準備書面」中明らかにインドネシヤの組合員ハテイラマニに賃貸借契約を締結し、金を預っていると自認している。加之に、被上告人(被告)昭和三三年一二月一八日附準備書面中、被上告人福武は「尚原告(ハンデルス銀行)の主張する債権が組合員の共有であるとの点につき参加人(上告印度銀行)の主張を援用する」と明白に陳述している。更にはまた、成立に争のない丙第八号(ハテイラマニ証人調書)中ハテイラマニ自ら訴外インドネシヤが組合である事実を確認し、丙第一号証、丙第二号証の一乃至三(敷金領収書)等もハテイラマニ個人の名義は全く記載されず、全部インドネシヤ・マラヤ・エキスポータース名義となっている事実に鑑み、インドネシヤが組合組織であることは何ら疑う余地はないのである。然るに原審は経験法則に反して事実を認定したるのみならず、前述のとおり被上告人福武自ら訴外インドネシヤが組合である事実を明認しているにも拘らず、毫もこれ等の重要なる点につき判断を下すことなく、独断を以てすべてを対蹠的に断定された違法がある。

第二点原審は組合員の対外的業務執行における法律効果と、その対内的(組合員相互間)における法律効果とに関し、法律の解釈を誤まった違法があり、破毀を免れない。その理由は次のとおりである。

(一) 原審は本件賃貸借契約はパートナーシップであるインドネシヤとではなく訴外ハテイラマニ個人と被上告人福武間に成立したものであるとの認定の下に、右賃貸借契約は商行為であり、その敷金債権金六十万円は五年の時効により昭和三六年三月末日を以て消滅すべきものとなし、日く「控訴人(上告人)は昭和三六年七月五日被控訴会社(被上告人)に送達せられた第二準備書面によって、第二次的にハテイラマニに代位して本件敷金の返還を請求する旨主張するまで、本件敷金の返還請求権を有するものはパートナーシップであるインドネシヤ・マラヤ・エキスポータースであって、控訴人は組合に代位して本件敷金の返還を請求する旨主張して来たこと記録上明らかであるから、控訴人の参加は本件敷金返還請求権の時効中断の効なきものである」と判示している。

(二) そこで組合の対外的業務執行の形式につき稽えるに、元来組合は法人格を有せず(英国法系組合も同じであり、印度組合法においてもまた然り)、その権利義務は普通には全組合員に帰属する。そのためには対外的な法律行為もまた、全組合員の名で行はるべき筋合ではあるが、実際問題として、本件の如く他の組合員が海外に在るような場合には、全員が共同して行動することは不可能な場合もあるし、また日常の取引上事実不便なので、多くの場合は、代理の形式で行はれる。例えば、甲乙丙三人の組合で、甲が第三者たる丁と取引する場合には、甲自身組合員たる本人としての立場と、他の組合員乙及び丙の代理人たる立場で即ち甲乙丙が共同して法律行為をする立場で為される。その結果代理の理論に基いて、甲乙丙三人が、第三者丁に対して直接に権利を取得し義務を負うことになる。組合の対外関係が普通に組合代理と呼ばれるわけである。しかして、各組合員が代理行為をする場合には、本人、すなわち全組合員の名においてするのがオーソドックスな方法であろう。然し前述のとおり、全組合員の氏名を示す必要はない。普通には、某々組合の代表者、業務執行者、理事、管理人、総代、英語ならば MANAGING PARTNER 等の肩書で示され、それで必要且充分である。殊に手形の受取人としては、組合名だけで足りるとするのが判例であり(大審院大正十三年(オ)第一一〇九号約束手形請求事件、同十四年五月十二日第二民事部判決・判例集四巻六号第二五六頁)。学説もこれを支持する(判例民事法大正十四年度一九二頁小町谷博士評釈)。

(三) 前項設例の場合において、もし第三者丁が当該組合につき認識を欠き、他の組合員乙丙を知らないとすれば、当該特定の行為につき、対外的にはその行為者たる甲だけが権利義務一切を引受け、内部的にはそれを組合の計算で処理することになる。従って第三者たる丁は、自己が取引する相手方が組合であるかどうかにつき、認識を有すると否とに論なく自己の利益を害されることは皆無であり、またこれがため特段の損失を蒙ることはありえない。何となれば第三者丁が行為者甲の名においてではあるが、しかも組合の為に為されるものであることを知らない場合には、勿論行為者たる甲において全責任を負はねばならぬ筋合だからである。従ってそれは代理人が本人のためにすることを示さなかった場合と同様である(民法第百条)。

(我妻博士著、債権各論中巻民法講義V3第七八八頁以下御参照)

(四) 印度組合法第二章・組合の性質。

第四条は左の如く規定している。

「(1)  パートナーシップ(組合)とは全員により、又は一員が全員のため営む事業より生ずる利益に参加する人々間の関係である。

(2)  他の者と組合を結成した人々は個人的にはパートナース(組合員)と称し、集団的にはフアーム(商業組合)と称し、事業を営む名称はこれをフアーム・ホーム(組合商号)と称す。」

印度組合法第四章・組合員の第三者に対する関係第十八条は左の如く規定している。

「本法の定めるところに従い、各組合員は組合事業の目的のため、組合の代理人である。」

右規定につき、ウエンスレイデール卿はコックス対ヒックマン事件の判例において次の法則を樹立した。即ち「凡そ他人をして事業を営むことを許容し、それが自己の名においてなさるると否とを問はず、売買を為し、利益の全部を自己に支払わせる者は、当該事業が自己の名において行はれると否とを問はず、疑いもなく本人であり、そのために使用される他人は、本人の代理人である。故に本人は雇傭中代理人のなす契約につきその責に任ずるのである。従って、二人以上の者が、事業を営み、それより生ずる利益の分配を約すときは、各人は本人であり又各人は他の者の代理人でもあると同時に、各人は事業を営むため他の者が為す契約に拘束されるのである。これは恰も、本人に対して利益の全部を与える代理人の行為により、その本人が拘束を受くべき場合と同様である」換言せば、各組合員は、本人として、自己のために取引を為し、同時に他の組合員の代理人として取引をなす者である。問題としては果して組合員間に相互代理の拘束力ある契約が存在したかどうかであるが、この点につき、右第四条が「組合とは、全員により、又は一員が全員のために、営む事業より生ずる利益に参加する人々間の関係である」と規定してある点を参照されたい。故に事業を営む組合員は、全組合員の代理人としてこれを行い、全組合員に対して計算を明かにする義務がある。然らば組合員は組合の代理人である。但し組合員は単なる代理人ではない。即ち組合員の構成員たる資格において、組合員は同時に彼自身本人である。故に組合員相互間の内部関係は、本人としての相互関係である。また組合員と外部との関係は、組合員内部の相互の取極めがどのようなものであろうとも、各組合員は組合の事業に関して為す行為については、他の組合員の全権代理人である(D・F・ミユラ著印度売買法及印度組合法第五版・一九五五年ボンベイ市発行第一〇九頁、第一二七頁御参照)

(五) 次に対外的債務については、各組合員は各自連帯して其の責に任ずべきものである。この点につき印度組合法第二五条は次のように規定している。

「各組合員は、彼が組合員である間に為された一切の組合の行為に対し、他の組合員全員と共に連帯して債務を負う」

日本民法の組合に関する規定は、フランス民法と同じく、組合員が外部に対する債務は原則として合同債務である。然し商行為については、商法第五百十一条の規定により連帯債務となるから、結局効果は印度組合法におけるものと同一である。

(六) 以上考覈したとおり、訴外ハテイラマニがパートナーシップ(日本民法上の組合と同一ではないが、性格がこれと酷似していることは第一審判決を支持する原審もこれを認めている)であるインドネシヤの組合員であるのは事実であり、丙第一号証による賃貸借契約書にハテイラマニがインドネシヤのパートナー組合員であることを明示して署名し(民法第百条)これに基き発行された受戻証券たる敷金領収書(丙第二号証の一乃至三)、が三通共全部右インドネシヤ名義で発行されている実情に鑑み、被上告人福武において、本件賃貸借が本人たるインドネシヤの為めになされたものであることを知るを得べかりしにも拘らず、福武側の不注意により訴外ハテイラマニ個人の為めになされたものと信じ、そのように処理されたとしても、如上上告人が論証したとおり、右は本件基本的債務関係に何ら影響を及ぼすべきものではない。要は、対外的にはハテイラマニ自身が当該法律行為に対する全責任をとることによって、毫も被上告人福武の権益を侵犯せず、対内的にはその効果をインドネシヤに帰属せしめるに過ぎないのである。従って民法第四百十三条の規定に則り、インドネシヤに代位して本件敷金の支払を訴求することは、とりも直さず同時に本人ハテイラマニに其の法律効果を及ぼすのである。原審の判示するが如くんば、仮に上告人銀行においてハテイラマニ個人に代位すると主張せば、否々敷金は組合に帰属すると逃げ、又組合に代位すると主張せば、否々これはハテイラマニ個人に帰属すと遁げるは必定です。また現にそのとおりである。果して然らば、債権者は敷金受戻証券を手にして、只唖然として天の一角を疾視するのみであり、これ上告人が原審において、権利の濫用であると叫んだゆえんである。

豈斯の如き理あらんやであります。

(七) 印度組合法第十六条は左のとおり規定している。

「組合員間の契約に従い、

(イ) ある組合員が組合の取引から、又は組合の財産、商取引関係若くは組合商号から彼自身のため或る利益を得たときは、彼はその利益を計算して、これを組合に支払うべし。

(ロ) ある組合員が、組合の事業と同一又はこれと競業する事業を営むときは、当該事業から彼が取得した一切の利益を計算して、これを組合に支払うべし。」

右規定により明かであるとおり、

(A) 例えばA、B及びCを組合員とする組合で、若しCがA及びBの承認を得ないで、C自身の利益のため、組合の事業を行う目的で家屋を賃借したとする。この場合、若しA及びBが欲するならば、彼等は右賃貸借の利益に参加することができる(勿論欲しないならば、全部Cの責任となる)。(一八一〇年フエザーストンホー対フエンウイック事件)。

(B) 英国組合法第九条によると、組合員は組合の契約より生じた債務については合同債務を負担し、不法行為より生じた債務の場合にのみ連帯債務を負担するのであるが、印度組合法においては、組合の契約関係から生じた債務たると、不法行為から生じた債務たるとを問はず、組合員は卒直に各自連帯してその責に任ずる定めである。而してこの連帯性は、現行印度組合法が制定される以前、即ち未だ組合が印度契約法中の一部に規定されてありし時代より、印度全高等裁判所は、契約法第四十三条の解釈として、各組合員の責任を連帯債務であることを判例としたのである。

故に組合の債権者又は契約上資格ある者は、どの組合員又は全組合員に対しても全部弁済又は契約の履行を強制することができる、従って組合債権者は組合員中の或る者を訴追することも可能であり、また組合員全員を共同被告として併合(共同)訴訟をしなくとも(NON-JOINDER ACTION)、防訴抗弁を以て対抗されることはないのである。

(R.L.ANAND)著(THE INDIAN PARTNERSHIP ACT 一九五六年版第二三八頁以下御参照)(法学博士八木弘鑑定書、丙第十三号証御参照)

(八) 原審はハテイラマニに代位する上告人の第二次的請求を棄却すると提示されたが、元来右第二次的請求なるものは、法律上いはゆる重畳的請求であって第一審判決がパートナーシップ並びに日本民法組合の法理を誤まり、前に指摘したように、組合債権債務関係の混同を敢てしたから、これを是正する意味で提出したものに過ぎない。

前にも論証したとおり、インドネシヤに代位訴求することは、当然ハテイラマニに対してもその効力を及ぼすものである。而して被上告人福武自身も前述の如く「インドネシヤ・マラヤ・エキスポータース組合員ハテイラマニと本件賃貸借契約を締結し同人より金員を預かった」事実を明認し、且又「尚原告(ハンデルス銀行)の主張する債権が組合員の共有であるとの点に付ては参加人上告人の主張を援用する」と主張しているのであるから、原審がハテイラマニに代位する上告人の第二次的請求を棄却するに当っては、須らくインドネシヤとハテイラマニ間の法的関係を闡明し、何故インドネシヤに代位請求することが不当であるかを判示すべきにも拘らず毫もこのことなく只漫然と被上告人自ら認むるインドネシヤを本件請求につき不適格となし、最も重要なる右争点を看過し無判断となしたるは違法であって破毀を免れないと信ずる。

第三、四点<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例